現在、このブログはアップデートしていません。 新しく下記WEBサービスを始めました。 ブログもそちらへ移行しています。
ぐるりんまっぷ ぐるりんまっぷ

2009/04/23

豪州での夏の夜

あれは2003年の夏のことだった。

ダーリングハーバーを遊覧する船の霧笛が遠くに聞こえた。
コーク&ウォッカをバーテンに頼み暫しの談笑。
景気はどうだい?なんて当たり障りのないくだらない会話。
もっとも、俺の話すことに中身なんかあったためしはないのだが。

カウンター越しにいる女に目を向ける。
洒落た言葉で誘いをかけようってんじゃあない。
この女が、このバーに俺を呼んだんだ。

ジェーンは、俺に電話で話した内容と同じことを繰返す。

まあ、そう腐るなよと俺。
2ヶ月もこのシドニーを留守にして、帰ってくるなり誕生パーティだなんて言ったって、そりゃ誰も集まらないさ。
愚痴を聞かされることを覚悟で、このバーにやってきたんだ。
いくらでも聞いてやる。
腰を据えた俺は、空になったグラスをカウンターに置き、バーテンを呼ぶ。

二杯目を頼むぜ。
別れ話ですか?とバーテン。
いや、そんな洒落た話じゃないんだ。
誰しも愚痴りたい夜があるんだ。深い話じゃぁなくて悪いが、あんたも聞いてやってくれ。

明かりの灯るプールを指差し、一勝負やろうじゃないかと持ちかける俺。

ジェーンのボールが軽くクッションを叩く間に俺のボールが止まる。
俺のワンストロークが二つのストライプボールを落とす。

君がソリッドだ。
わかってるわよとジェーン。

この国じゃ、8ボールが主流だ。
ハスラーなんていう映画の影響か9ボールが主流の国もあるが、バーで酒を煽りながらプレイするにはワンショットで勝負が決まっちまうことの多い9ボールじゃ長く楽しめない。
8ボールのゆったりしたプレイスタイルが酒に良くあう。

プールテーブルの三つ目のストライプをポケットに収めたところで、俺の手玉がロストした。
手加減しなくていいわよとジェーン。

手加減なんかするものか、3ボール続けてポケットなんて俺にしちゃ上出来なんだ。

彼女がキューを手にする前に酒をオーダーする。
さっきから何も飲んでいないじゃないか。ショットを決める前に一杯飲めよ。
ジャックダニエルをバーテンから受取りジェーンに手渡す。

そうね。お酒を飲まないとフェアじゃないかしらとジェーンは受け取ったジャックダニエルを一気に飲み干す。
色気も何もあったもんじゃないな。
彼女が何か言おうとするのを遮り、いいからショットを決めろよと俺。

彼女のソリッドがポケットに沈み、手玉がクッションを叩く。
続けてショットしていい?とジェーン。
もちろん、それがルールだ。

彼女の2ショット目の手玉は、残念ながら俺のストライプに当たっちまったが、あなたの番よと二杯目のグラスに手を伸ばした彼女の顔には、ようやく笑顔が戻ってきたようだ。

最初の勝負は俺の勝ち。

ダーリングハーバーに朝日が射すまで何回の勝負をしたのだろうか。
今となっちゃ覚えていないが、豪州での夏の夜をふと思い出した。

JAPANESE/ENGLISH